ヒゲとボイン『BUFFALO’ 66』

オフビート映画

 90年代のインディペンデント映画、とりわけアメリカのOff-Beat(オフビート)系の映画を良く見返しています。

 オフビート映画とは、登場人物の行動が普通の人々から随分とズレていて、その一拍遅れのドタバタに釣られて、物語の起承転結も思わぬ方向へ飛び跳ねる。一歩間違えれば、退屈なアドリブ映画になりそうなジャンルです。

 ビートが乗り出したストーリーの流れになかで、さらにインパクトの強いシーンが急に飛び込んでくる映画。「なんの話ですのコレ!?」と突拍子の無い展開に突っ込みながら、ジワジワと不思議に心地良くなる映画。それがオフビート映画(多分)。

ナイト・オン・ザ・プラネット(1991年)』、『シンプルメン(1992年)』、『トゥルー・ロマンス(1993年)』、『恋する惑星(1994年)』、90年代は名作オフビートの宝庫でした。

 90年代の映画環境は、メジャースタジオに頼らないインディーズ映画配給システムをMIRAMAXが80年代に作り上げたおかげで、僕たちは多くの新進気鋭の監督作品に巡り会うことができた。

 さらに、9.11同時多発テロ以前の世界でしたので、政治的な社会問題を意識することはあまりなかった。どちらかと言えば、お気楽な時代でした。

“ボーイ・ミーツ・ガール”から始まって、誰かが誰かに恋をして、勝手に勘違いをして、それぞれ追いかけっこをする。最後まで誰も死なない映画。

ツノムラ
ツノムラ

個人的な幸福をひたすらに内向きに深掘りする90年代当時のオフビート映画のことが特に最近気にになります。コロナ禍の今と違い、社会全体から距離を置いて気楽に生きていける自由な時代でした。

監督・脚本・音楽・主演:ヴィンセント・ギャロ
『バッファロー’66』

本日は、90年代オフビート映画の最高傑作で、当時のファッション・アイコンであるヴィンセント・ギャロが監督・脚本・音楽・主演の『バッファロー‘66(1999年公開)』をご案内します。

 5年の刑期を終えたビリー・ブラウン(ヴィンセント・ギャロ)は、ニューヨーク州バッファローの実家に戻る。自分の服役の事を家族に隠し、ビジネスで長く留守にしていたと母親に偽る。そして、今度は婚約者と共に里帰りすると電話口でうそぶく。

ツノムラ
ツノムラ

ざっくりと映画の外観は、優しい男女が暇つぶしに里帰りする物語。二人とも社会のビートから乗り遅れている。そのズレが自分勝手で純粋でたまらなく愛おしい。

ビリー・ブラウン(その男、凶暴ではなくただ優しい)

主人公のビリーは、目眩がするほどにカッコ良い。

 ラグランスリーブのライダース・ジャケット、3ポケットのスラックス、サイドジップの赤いブーツ、すべてが長身細身のビリーにジャストフィットのサイズ。
ギャロ以外には、絶対に着こなせない洋服スタイル。

 そんなビリーが、映画の冒頭から挙動不審に街を走る。

 それも内股で、カマキリの様に手の甲を真正面に小さく振り上げて、モジモジしながら走る。

どうやら今回のギャロはダサイらしい

彼は、デスパレートにトイレを探している。

 行く先々で、丁寧な言葉遣いで「洗面所をお借りしたいのですが?」と尋ねるが、ことごとく断られる。多分、皆から怪しまれている。

 鳶色の瞳、無造作な髭と黒髪のオールバック、鷲鼻と痩けた頬、あのクールなギャロが、「SWITCH」、「CUT」、「GQ Japan」ファッション誌の表紙を独占していた男前のギャロが額に脂汗している。
ダメだ、膀胱が耐えきれない、失禁寸前だ。

レイラ(とびっきりのエンジェル。どこか隙がある雰囲気)

映画のキャッチコピーは『最悪の俺に、とびっきりの天使がやって来た』

 天使みたいな恋人「レイラ」を演じるのがクリスティーナ・リッチ。
小柄でコケティッシュ(日本で言えば安達祐実?)な観音菩薩キャラ。
彼女は、金髪に染め、ラメ入りのブルーアイシャドウ、淡い色のキャミソールに薄手のカーディガンを艶やかに羽織る。豊満なボディー・コンシャスに僕たちは首ったけ。
 そのファスト・ファッションのカルチャーにアメリカ郊外のマイルド・ヤンキーのリアルを実感した。
 どうだって良いけれど、彼女の車は汚れている。車内はファストフードの包み紙だとか、その他に散らかったクズゴミが散在している。
 初対面で失礼な言い方ですが、彼女には、どこかに隙がある。老婆心ながら、悪い男にひどい目に遭わされないか心配になる。

あらすじ。少しだけネタバレにご容赦ください。


 映画のイントロ部分だけ紹介させてください(ネタバレは極力に避けます)。

 服役後に新しい街に迷い込み、お手洗い探しに彷徨うビリーは尿意に耐え、ようやく忍び込んだダンス教室のトイレで放尿に辿り着く。失禁寸前の苦しみから解放され、エクスタシーに近い身震いの安堵と僅かの残尿感を残しながら、正気に戻る。その放尿の帰りすがらに、たまたまダンスレッスンを受けていたレイラを誘拐する。

彼女を後ろ手で羽交い締めにして、「言うことを聞け」と脅す。

ビリーは今朝、刑務所から出所したばかりだ。無一文で崖っ淵だ。目が本気だ。

ツノムラ
ツノムラ

ビリーは正気ではない。言わんこっちゃ無い。
「レイラはん、あんさんの隙には気をつけなはれや」と僕は行ったでしょ。一人突っ込みが増します。

ビリーはレイラを脅して、彼女の車を奪う。
 ニューヨーク州バッファローの彼の実家に向かうつもりだ。しかし、それはマニュアルトランスミッションの厳ついアメ車。彼は、「オートマチック車しか運転できない」と小さな声で彼女に文句を言う。神経質な奴は、ダメ押しに、彼女の車内が汚いとさらに罵る。ひどく面倒臭い男だ。

仕方がなく、囚われのレイラが自分で運転する。
ビリーが車を止めろと指示する。

「今だ、レイラ逃げるんだ!」
(奴は銃を持っていない。それにただの頓馬だ)

彼女は逃げない。

レイラは、ハニカミながらビリーに微笑み返す。

ツノムラ
ツノムラ

「レイラ! 本気か?逃げろ!」

「この状態で一目惚れ?」

「ストックホルム症候群?」

ここから先は、本作を是非にご覧ください。


気になる『その1』

<ボーリング場でのクリスティーナのタップダンス>

ボーリング場で幻想的にぶっ飛ぶ映像は、コーエン兄弟の「ビッグ・リボウスキー」のデュードが有名です。しかし、照明が落ちたレーンで踊る彼女のタップは、同じくらいにぶっ飛んでいて、とてつもなくエロくて可愛い。
 BGMは、キング・クリムゾンのプログレッシブ・ロック「Moon Child」でテンションがローギアに入って強い酒を飲みたくなる。

気になる『その2』

<刑期を終えて誰も迎えにこない寂しい出所>

服役出所から始まる映画に名作は多いと思います。

幸福の黄色いハンカチ(傷害罪の服役)」の高倉健

ブルース・ブラザーズ(強盗罪の服役)」のジョン・ベルーシ

「オーシャンズ11(詐欺罪の服役)」のジョージ・クルーニー

みんな出所を待ってくれる友人や家族がいて、主人公が再起して、失われた時間を取り戻す。不器用な男たちのそれぞれの再生ストーリーに僕たちは感情移入する。
 本作のビリー・ブラウンは、何を取り戻したのか? 気になるところです。

気になる『その3』

<モテない男のぎこちないキス>

 映画のキスシーンって照れ臭い。しかし、ビリーとレイラの二人のぎこちないキスシーンは、絵画的でシャガールとかアンリ・ルソーとか幻想的な印象画のようで家に飾りたくなる。
 それは、ポスターやイラストにもなっていて、今見ても新しくもあり、懐かしい。
 篠山紀信さんが撮ったジョンとヨーコのキスシーン(オノ・ヨーコさんの「Kiss Kiss kiss」のアルバム・ジャケット)と「マイ・ブルーベリー・ナイツ」(ウォン・カーウァイ監督、ノラ・ジョーンズ主演)と並んで世界三大キスシーンだと思います。

最後に小島先生の「ヒゲとボイン」を思い出した。


ドーナツが大好物のビリーは、ハート型のストロベリー・ドーナッツを真夜中のコヒー・ダイナーで買う。それが、美味そうで、今晩は、釣られてチョコレート・ドーナッツが食べたくなる。

最後に、「最悪の俺に、とびっきりの天使がやってきた」の映画キャッチコピーは、本当にその通りでした。レイラは女神でした。

 髭面のC調男と魅惑のグラマー女性、大人の男女のアレコレを描いた小島功先生のコミック「ヒゲとボイン」を読み返したくなりました。

今宵は変な夢を見そうな気がします。

ナイトキャップ代わりのウィスキーを飲んで寝ます。

おやすみなさい。

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